2. 遷移金属酸化物の相転移近傍での熱輸送に関する研究


   最近、ペロブスカイト型Mn系酸化物RE1-XAEXMnO3(REは3価の希土類元素、AEは2価のアルカリ土類金属)は巨大磁気抵抗(CMR)効果を示すことにより、物質科学全般の分野で活発に研究されています。(RE,AE)の平均イオン半径が大きなLa1-XSrXMnO3系などでは強磁性(FM)転移に伴う絶縁体・金属(I-M)転移を起こしますが、一方、(RE,AE)の平均イオン半径を小さくし二重交換相互作用を抑制することにより、局在スピン間の超交換相互作用やヤーン・テラー相互作用、電荷および軌道整列現象、構造相転移、相転移不安定性など、二重交換と相反する種々の相互作用や不安定性の効果が重要になり、それらは互いに競合しスピン系、軌道を含む電子系、さらには格子系が複雑に相関した興味ある物性を示します。

  Mn酸化物における熱伝導率k(T)などのフォノン伝達の研究は、Bell研究所のRamirezらとMiami大のCohnらのグループなど数例の報告が存在しているだけです。これらの報告で共通した実験結果は、
(1)たとえ良質の単結晶でも熱伝導率k(T)の値は非常に小さく、k(T)はフォノンの伝導と散乱によって支配されている。
(2)強磁性転移がI-M転移を伴う場合に、k(T)は強磁性転移温度Tc近傍で異常を示すが、強磁性転移が絶縁体状態で起こる場合(すなわちI-M転移を示さない場合)には、k(T)は明確な異常を伴わない。
(3)k(T)は電荷整列(CO)相転移温度TCO以下で急激に減少する。
(4)Mn3+とMn4+が1:1に存在する場合、A-type反強磁性秩序を有するPr0.5Sr0.5MnO3とCE-type反強磁性秩序を有するPr0.5Ca0.5MnO3では、反強磁性転移温度TN以下でのk(T)の振る舞いに違いがある。
などです。

 本研究グループでは高温酸化物超伝導体での豊富なフォノン熱伝導解析の経験に基づき、 ペロブスカイト型Mn系、Co系酸化物の相転移近傍での熱輸送特性(熱伝導率k、熱拡散率a、熱起電力S、比熱C、音速vs、熱膨張dL/Lなど)と、強磁性(FM)転移、電荷整列(CO)相転移、構造相転移との関係について検討を行っています。

これまでに研究を行った系は、

  ・La1-XAEXMnO3系(AE=Ca, Sr, Pb, Ba)
・RE1-XSrXMnO3系(RE=Sm, La, Pr, Nd, Gd, Dy)
・Pr1-XCaX(Mn1-ZMZ)O3系(M=Cr, Co, Fe, Ni, Ga)
・La1-XCoXMnO3
・La1-XCoX(Mn1-ZCoZ)O3
です。

これらのフォノン伝達係数の間にはk=Caという関係が存在するので、kとaを独立に測定することにより比熱Cを算出することができ、またaとvsを測定することによってa= vsl/3= vs2t/3という関係から熱キャリア(フォノン)の平均自由行程l、平均緩和時間tを直接算出することができます。



《具体的な研究内容》

・LCMO, LSMO系の音速異常
・FM転移、CO転移における熱伝導率の変化
・CMR化合物の状態図

詳しくは、研究業績を御覧下さい。

試料作製装置


左から(a)焼結炉(8台),(b)FZ結晶成長装置(学内共通), (c)ケラマックス電気炉(1800℃)(学科共通)