パルス着磁法を用いた超伝導バルク磁石で世界最高磁場を実現


 工学部材料物性工学科の藤代博之助教授の研究グループは、「パルス着磁法」で超伝導体の塊(バルク)を磁化し、この方法では世界最高となる4.47テスラ(44700ガウス)の超伝導バルク磁石の開発に成功した。「パルス着磁法」は従来技術よりも安価で簡便なのが特徴である。磁性を帯びた材料に有害物質などを付着させ磁気力を用いて分離する「環境浄化用磁気分離」、リニアモーターカーなどの「磁気浮上」、「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」などの医療分野への実用化を押し進める研究成果として期待されている。

超伝導バルクとは?
RE(Sm, Gdなどの希土類元素)、Ba(バリウム)、Cu(銅)、O(酸素)からなる酸化物で、摂氏温度-183℃(絶対温度90K)で超伝導を示すため液体窒素(77K)中で超伝導となる。写真のような円盤状のかたまり(バルク)で作られ、電気抵抗がゼロである性質を用いた「導体応用」、「浮上応用」、そして今回の「磁石応用」が考えられ、精力的な研究が世界中で行われている。

Fig.1:超伝導バルクの写真

パルス着磁ってなに?
一般に超伝導バルクを磁化する(磁石にする)場合には、強い磁力を出す超伝導コイルの中で冷却し着磁を行うが、高価な超伝導コイルを必要とする(これを「磁場中冷却法」という)。これに対し、「パルス着磁法」は安価で可搬な、銅線を使ったパルスコイルを用いる利点がある。藤代研究室は2002年からパルス着磁法の研究を開始した。パルス着磁法は超伝導バルクを氷点下230ー250度前後に冷やし、約10ミリ秒の強いパルス磁場を当てることで、超伝導バルクに磁場を捕捉させ強力な磁石にする。強いパルス磁場を与えると瞬間的に強い磁場が侵入するものの、バルクが急激に発熱する。温度上昇により超伝導特性が悪くなるため、磁場が逃げ、最終的に捕捉される磁場も小さくなる。このため世界の研究者がさまざまの方法を試し、パルス着磁法でより強い磁場を得ようと盛んに研究開発が行われている。これまで報告されたパルス着磁法での捕捉磁場は最大3.8テスラだった。これまでの研究からパルス磁場の加え方を改良するとともに、バルクの表面温度を計測し、発熱を最小にする最適な印加磁場と印加回数、最適なバルクの温度を決定した。パルス磁場は3〜7テスラで複数回印加した。温度は氷点下233ー253度として、2005年2月に、4.47テスラの磁場を得ることに成功した。この研究成果は応用物理学会論文速報誌(J.J.A.P. Letters)の9月号に掲載される。(岩手日報8月28日朝刊1面で紹介された。岩手日報のHPから「過去のニュース」へ入り、検索できます。)

Fig.2:パルス着磁法の概念図

世界最高磁場をさらに更新中!
その後、さらに改良を加え、2005年9月現在、5.20テスラの磁場捕捉に成功し記録を更新中である。今後、6テスラを超える方法の確立と、超伝導バルク磁石の産業への応用を展開する予定である。

Fig.3:バルク磁石に吸い付く千円札

参考文献: